「魚油と魚粉はどこから来るのか? 日本の大都市に眠る水産加工残渣と、そのトレーサビリティ(2)」Seriola Initiative Report

「魚油と魚粉はどこから来るのか? 日本の大都市に眠る水産加工残渣と、そのトレーサビリティ(2)」Seriola Initiative Report
2024年6月11日 JSI
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前回の投稿でご紹介した通り、日本では、魚の加工で発生した残渣(都市残渣)を回収し、飼料用の魚粉・魚油としてリサイクルする仕組みが確立しています。しかしながら、日本では多種多様な魚種が流通するため、残渣由来の魚粉・魚油に、何の魚が使用されているかを追跡することは非常に困難です。MEL養殖認証規格やASC Standard等の国際的なエコラベル認証制度では、飼料に使用される原料の厳格なトレーサビリティが要求されます。天然の餌魚だけでなく、加工残渣の元となる魚に関しても、絶滅危惧種や違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, Unregulated; IUU)漁業で採捕された魚を利用することは認められていません。

 

日本の都市残渣由来魚粉に含まれる魚種の解析

そこで、我々は、環境DNAの解析で用いられるDNAメタバーコディングという手法を応用し、都市水産残渣由来の魚粉からDNAを抽出し、そのDNAに含まれる魚種の定量化を試みました。2020年~2021年に掛け、月に1回以上の通年でサンプリングを行ったところ、魚粉のロット当たり、81―122種の魚種が検出され、ブリ、カツオ、マダイ、太平洋クロマグロ、マアジの順に多く検出されました。養殖生産量の多いブリは通年安定して検出され(9.3―16.2%)、カツオは3月下旬から10月に多く(7.2―25.6%)、マダイは年末年始に最大値となるなど(11.4―19.0%)、都市水産残渣の構成魚種は、まるで日本の魚食の写し鏡のようです(図1)。その一方で、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧種の「危機(EN)」又は「深刻な危機(CR)」として記載されている魚種(当時)は、ニホンウナギとミナミマグロが全てのロットから検出されました。特に、ニホンウナギについては、IUU漁業のリスクが極めて高いことが別の調査からも指摘されています(Kaifuら、2019年)。現時点では、都市水産残渣から製造された魚油・魚粉は、絶滅危惧種やIUU漁業で漁獲された魚が含まれる可能性が高いと判断せざるを得ません。

持続可能な未来に向けた都市残渣の活用

水産養殖産業が、貴重な海洋生物の絶滅や、IUU漁業に加担することがあってはなりません。しかしながら、都市水産残渣由来の魚油・魚粉は、限られた生物資源を有効活用する役割を持ち、「食のリサイクル」の点において、その重要性が揺らぐものではありません。先に述べたように、都市水産残渣は、日本の魚食の写し鏡であることから、都市水産残渣における絶滅リスク・IUU漁業リスクは、魚油・魚粉製造業者や養殖生産者だけの問題ではなく、シーフードサプライチェーン全体の問題として捉える必要があります。そもそも、絶滅危惧種やIUU漁業由来の魚がサプライチェーンに乗ることがないよう、日本がリーダーシップを取って国際的な漁獲管理を推進していくことや、IUU漁業撲滅に向けて漁獲証明制度を広げていくことが理想であり、それに向けた政府や業界の取り組みが求められるところです。

 

DNAメタバーコディングを用いれば、あらゆる魚粉や、その魚粉と同時に製造された魚油の、少なくとも生物種のトレーサビリティを事後的に把握することができます。例えば、魚種毎に「絶滅危惧リスク」や「IUU漁業リスク」を数値で設定すれば、魚粉・魚油のリスクの定量的な評価が可能になります。いきなりのサプライチェーンの変革が難しい場合には、段階的に目標を設定し、その達成度を測るツールとして活用できるかもしれません。DNAメタバーコディングに代表される新たな手法によるトレーサビリティの強化が、日本の養殖生産を支える魚油・魚粉が、どこから来ているかを知り、そして、その持続可能性への関心が高まる機会となることを期待します。

 

本調査結果は、以下の論文(英語)で詳しく報告しています。

Ido, A. and Miura, T., 2022. Species identification in fish meal from urban fisheries biomass with dna metabarcoding analysis. Aquaculture, Fish and Fisheries. 2: 562–571.