「魚油と魚粉はどこから来るのか? 日本の大都市に眠る水産加工残渣と、そのトレーサビリティ(1)」Seriola Initiative Report

「魚油と魚粉はどこから来るのか? 日本の大都市に眠る水産加工残渣と、そのトレーサビリティ(1)」Seriola Initiative Report
2024年5月2日 JSI
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 ブリ等の養殖魚の成長には、動物性タンパク質やω3脂肪酸を含む油脂が必要です。現在の水産飼料用の原料は、カタクチイワシ(写真)等の天然の小魚から製造された魚粉や魚油が主に用いられていますが、海の環境を守る上で、天然魚への依存率を低くしていくことが求められています。昆虫や藻類等の次世代原料はまだ開発途上である中、現状最もサステナブルな飼料原料として、食用魚の非可食部(加工残渣)活用の重要性が改めて見直されています。

 我々は、国内の加工残渣を用いた魚粉製造の状況と、持続可能な飼料への利用可能性を調査しています。その結果の一部をここに報告いたします。

    日本の魚油・魚粉製造の現状と、都市水産残渣の潜在的な可能性

     欧米では、シーフードサプライチェーンの上流(産地)において加工残渣が多く発生しますが、日本等のアジア諸国では、欧米とは逆に、サプライチェーンの下流において加工度が高まることから、残渣は人口が集積する消費地において多く発生します。これは、都市水産残渣(Urban Fisheries Biomass)と呼ばれる巨大な資源であり、2000年代前半の調査では、都市水産残渣は日本国内で年間150万tが発生し、国内で発生する残渣の約7割を占めると報告されています(樽井ら、2005年)。 日本国内で発生する都市水産残渣の多くは、回収され、魚油・魚粉の原料として有効活用されています。首都圏の工場では、1万以上の加工業者や販売店・飲食店から新鮮な加工残渣を毎日400―500トン回収し、魚油を絞りつつ、タンパク質に富んだ魚粉を製造します。絞られた魚油は、別の工場に送られ、脱酸・脱色工程を経て、精製魚油として生まれ変わります。その品質は、驚くべきことに、天然魚由来の魚油とほとんど変わりません。日本では、食料自給率が極めて低いことが課題となっていますが、魚油の国内自給率が約80%に上るのは特筆すべきことであり、そのうちの70―80%は、加工残渣から製造されています(水産油脂統計年鑑)。他国との比較では、日本国内で製造される魚油・魚粉の原料のうち、加工残渣が占める割合は著しく高く、日本のリサイクルシステムは、世界に類を見ないものであることが分かります(表1)。産地で発生する加工残渣だけでなく、都市水産残渣をも最大限有効に利用するシステムが、日本の魚油・魚粉供給を支えているのです。

本調査結果は、以下の論文(英語)で詳しく報告しています。
Ido A, Kaneta M. Fish Oil and Fish Meal Production from Urban Fisheries Biomass in Japan. Sustainability. 2020; 12(8):3345. https://doi.org/10.3390/su12083345