「養殖の抗生物質の使用削減を目指して」Seriola Initiative Report

「養殖の抗生物質の使用削減を目指して」Seriola Initiative Report
2025年2月17日 JSI
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 養殖において病気が発生すると、どうしても抗生物質を使用せざるを得ない場合もあります。しかしながら、抗生物質の過剰な使用は、耐性菌の発生を招く恐れがあり、抗生物質の削減は世界的な課題です。世界保健機関(WHO)は、世の中に存在する抗生物質を、人の治療における重要度で分類しており(World Health Organization, 2024)、「極めて重要な抗生物質(Critically important antimicrobials; CIA)」に分類された薬剤は、人以外の目的、すなわち、畜産や水産において使用しないことが推奨されています(Scott et al., 2019)。
 我が国で承認を受けた水産用医薬品には、WHOによってCIAに分類された薬剤(エリスロマイシン、オキソリン酸等)も含まれており、法律上その使用が禁止されている訳ではありません。しかし、世界ではCIAの水産養殖での使用が禁じられた国も多く、CIAの使用は、日本のブリの輸出を促進する上での障壁となります。ASCのブリ・スギ基準(Seriola and Cobia standard)では、CIAに分類される薬剤の使用は認められていません。すなわち、ASC認証を受けたブリは、「CIAに分類される薬剤を使用せずに生産されたことが保証されたブリ」ということになります。また、抗生物質の使用実績の調査から、ASC認証のブリは、CIAだけでなく、全ての抗生物質の合計使用量も、ASC認証を受けていないブリと比較して、有意に少ないことが明らかになりました(Ido, 2023)。ASC認証のブリが、多くの消費者に受け入れられることは、日本の水産養殖における抗生物質の削減を実現する、具体的な手段の一つとなり得ます。
 世界的な海水温上昇等の環境変化から、新たな魚病が発生するリスクも高まっており、抗生物質の使用をすぐに削減することは簡単ではないのが現状です。ワクチンによる予防の徹底、魚病の早期発見、養殖手法の改善等、適切な健康管理技術を確立する必要があります。JSIとして、組合員と協力し、日本のブリ養殖における抗生物質の使用量を削減する取り組みを継続していきます。
 [参考文献]
Ido, A., 2023. Antimicrobial use in ecolabel certified and non-certified yellowtail (Seriola quinqueradiata) aquaculture in Japan 31, 101647. https://doi.org/10.1016/j.aqrep.2023.101647.
Scott, H.M., Acuff, G., Bergeron, G., Bourassa, M.W., Gill, J., Graham, D.W., Kahn, L.H., Morley, P.S., Salois, M.J., Simjee, S., Singer, R.S., Smith, T.C., Storrs, C., Wittum, T. E., 2019. Critically important antibiotics: criteria and approaches for measuring and reducing their use in food animal agriculture 1441, 8–16. https://doi.org/10.1111/nyas.14058.
World Health Organization. (2019). Critically important antimicrobials for human medicine, 6th revision. https://www.who.int/news/item/08-02-2024-who-medically-important-antimicrobial-list-2024/.

文責:井戸 篤史(JSI事務局、愛媛大学客員准教授)